今このノートを再び手に取るまで、そのもう一人のわたしの声にずっと怯えていた。
また、聞こえてくるのではないかと。
でも、もう聞こえてはこなかった。
強張ってノートを繰っていた指の力が抜けた。
あの力みは一体どこへ消え去ったのだろう?
時間が止まったぽっかり空いた空間に座っている。
再びその風景のなかにいると、白いベールがサーっと天に巻き上げられ
その時に見えなかった景色があらわれた。
私達が残そうとしていたのは、彼らのこころなのだ。
七年という年月が経って、そう答えが出た。
何かやり残した後ろめたさが細い尾となりずっと引きずっていた。
やっと彼らにその意味を持って向き合える。それを伝えなければ。
瞬間を感じあったその時を切り取って記し残すことでこの旅は完結する。
私達を通して彼らの、生き残った彼らの、そしてそこで生命を刻み付けた彼らたちのこころ。
一人と、そして一人との小さくつながる関係だったからこそ、細かく深く太いこころのカケラたちが何層にも積み上がる。
透明なカケラたちの中には色とりどりの光が湛えられている。
そうだ、光をあてるのだ。
天高く光を放つそのこころの色に光をあてるのだ。
私なりの光でいいのだ。
窓を開けた部屋
ちいさな女の子のか細い声が風の音に乗って聞こえた
「もう、いいよ」
つづく
ten-maru-chan
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